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東京地方裁判所 昭和44年(むのイ)2273号 決定

申立人

「ベトナムに平和を!」市民連合

代者者 小田実

右申立人から、司法警察員高山喜七郎が昭和四四年一〇月一一日、東京都新宿区神楽坂六の四四石井ビル内「ベトナムに平和を!」市民連合事務局内においてなした別紙一目録記載の物件に対する差押処分に対し、その取消を求める旨の準抗告の申立がなされたので、当裁判所は次の通り決定する。

主文

司法警察員高山喜七郎が、昭和四四年一〇月一一日、東京都新宿区神楽坂六の四四石井ビル内「ベトナムに平和を!」市民連合事務局においてなした別紙一目録記載の物件に対する差押処分は、これを取消す。

理由

一、申立人は、主文同旨の裁判を求め、これに対する申立人主張の理由は、別紙二の「申立の理由」に記載の通りである。

二、よつて判断するに、当裁判所で取寄せた被疑者遠藤洋一に対する昭和二五年七月三日都条例第四四号集会集団行進及び集団示威運動に関する条例(いわゆる東京都公安条例)違反被疑事件の捜査に関する一件記録によると、司法警察員高山喜七郎は、東京簡易裁判所裁判官斎川貞造発布の捜索差押許可状に基き、昭和四四年一〇月一一日、東京都新宿区神楽坂六の四四石井ビル内「ベトナムに平和を!」市民連合事務局において、別紙一目録記載の物件を差押えてこれを押収したこと、右差押許可状には、「差し押えるべき物」として、「本件犯罪に関係ある指令、通達、通信、連絡、報告等の文書、2会議録、議事録、金銭出納簿等の文書簿冊、3闘争の組織、編成等に関する文書簿冊、4日記、メモ、ビラ、機関紙、誌等の文書」と記載されていること右差押許可状発布の前提となつた被疑者遠藤洋一に対する被疑事実の要旨は、「被疑者は、昭和四四年一〇月一〇日東京都渋谷区神南町二五番地所在代々木公園B地区において開催された一〇・一〇大学べ平連連帯実行委員会主催の「ベトナム反戦、安保粉砕、沖繩闘争勝利、佐藤訪米阻止、一〇・一〇大学べ平連連帯集会」に参加したものであるが、右集会終了後、同集会に参加した学生約一、二〇〇名が、東京都公安委員の付した条件に違反してかけ足行進、ジグザグ行進をして示威運動を行つた際、これら多数の学生と共謀して同日午後二時七分頃から同日午後二時二二分頃までの間、同都渋谷区神宮前一の四、社会事業大学前交差点に至る間の道路上において、終始先頭梯団早大べ平連約二五〇名の隊列先頭の右側方に位置し、白色笛を口にして連続的に吹鳴し、左手を横に水平にあげて先頭隊列学生に指示して、かけ足行進、蛇行進、デモの停止、出発等を指揮誘導し、もつて右許可条件に違反した集団示威運動を指導せん動したものである」とのことが認められる。

三、ところで、前記取寄せにかかる一件記録及び別紙一目録記載の各物件、本件準抗告申立記録、並びに、証人木下恵、同吉川勇一、同遠藤洋一の各証言等を綜合して判断すると、次の如き事実が認められる。すなわち、別紙一目録記載の物件のうち、一の金銭出納票一枚、五、六のカンパ袋計二袋、七のビラ五枚、八のべ平連ニュース五部、九のビラ一枚、一〇のポスター五枚、一二の腕章二本は、いずれも昭和四四年一〇月一〇日午後三時から明治公園において行われた一〇・一〇統一集会実行委員会主催の「ベトナム反戦、安保粉砕、沖繩闘争勝利、佐藤訪米阻止」をスローガンにかかげた一〇・一〇統一集会及びこれに続くデモ行進に関係のある物であること、しかして右一〇・一〇統一集会実行委員会は、愛知県反戦連絡会議、青山学院大べ平連、「ベトナムに平和を!」市民連合(いわゆるべ平連をはじめ、その他多数の団体によつて構成されたもので、かつ、右一〇・一〇統一集会及びこれに続くデモ行進は東京都公安委員会の許可を受けた適法なものであつたこと、したがつて、「ベトナムに平和を!」市民連合は、右一〇・一〇統一集会、及び、デモの単独主催者ではなく、その主催者たる実行委員会の一メンバーに過ぎないし、又別紙一目録記載の物件のうち前記各物件は、いずれも前記一〇・一〇統一集会実行委員会主催の適法な集会等に関するものであること、一方被疑者遠藤洋一が前記東京都公安条例違反の嫌疑で逮捕される直前に参加していた集会及びこれに続くデモ行進は、前記一〇月一〇日正午から、代々木公園B地区において開催された一〇・一〇大学べ平連連帯実行委員会主催の「ベトナム反戦、安保粉砕、沖繩闘争勝利、佐藤訪米阻止」をスローガンにした集会及びこれに続くデモ行進であつて、右集会デモ行進は、被疑者遠藤洋一が代表者としてその許可申請をし、東京都公安委員会から許可を受けた適法なものであつたところ、右一〇・一〇大学べ平連連帯実行委員会は、早稲田大学べ平連とか、東京大学べ平連等多数の大学の大学べ平連によつて構成されたものであつて、前記一〇・一〇統一集会実行委員会とは、その構成メンバーを異にしていること、なお右大学べ平連は、「ベトナムに平和を!」市民連合とは独立した組織を有し、通常はこれと独立して運営されており、その指揮監督下にあるものではないこと、そして右大学べ平連によつて構成された一〇・一〇大学べ平連連帯実行委員会の主催した前記集会及びこれに続くデモ行進は、右一〇・一〇大学べ平連連帯実行委員会がその独自の判断によつてこれを計画、実施したものであつて、「ベトナムに平和を!」市民連合(いわゆるべ平連)や前記一〇・一〇統一集会実行委員会の指示命令によつて、計画実施されたものではないし、又これとの事前の打合わせ相談等に基づいて計画、実施されたものでもないこと、以上の如き事実が認められる。

そうだとすれば、別紙一目録記載の物件のうち、一の金銭出納票一枚、4.5のカンパ袋計二袋、七のビラ五枚、八のべ平連ニュース五部、九のビラ一枚、一〇のポスター五枚、一二の腕章は、いずれも一〇・一〇統一集会実行委員会が東京都公安委員会の許可を受けて主催した適法な集会等に関係あるもので、被疑者遠藤洋一の参加した一〇・一〇大学べ平連連帯実行委員会主催の前記集会及びこれは続くデモ行進に関係あるものではなく、いわんや右集会に続くデモ行進に際して行れた右被疑者遠藤洋一の公安条例違反の被疑事実には関係ないものといわなければならない。

四、次に、前記取寄せにかかる一件記録及び別紙一目録記載の各物件、並びに本件準抗告申立記録等を綜合して判断すると、別紙一目録記載の物件のうち、二のビラ三四枚、三のビラ三一枚、四のビラ八枚、一一のパンフレット五部は、いずれも、前記一〇・一〇統一集会実行委員会主催の集会等にも、一〇・一〇大学べ平連連帯実行委員会主催の集会等にも関係なく、いわんや被疑者遠藤洋一に対する前記公安条例違反の被疑事実にも関係のないことが認められる。

もつとも、二のビラ(斗う者の法知識シリーズ逮捕編)三四枚は、最近各地において、いわゆる過激な学生等が法律違反の行動に出て多数検挙逮捕されているところから、これらの学生等を対象として作られたものであることが窺われなくはないが、前述の如く被疑者遠藤洋一が関係した本件一〇・一〇大学べ平連連帯実行委員会主催の集会等は、「ベトナムに平和を!」市民連合の指示命令等によつてなされたものとは認められないから右「ベトナムに平和を!」市民連合事務局にあつたこれらのビラが被疑者遠藤洋一の前記東京都公安条例違反の被疑事実と関係があるとは云えないのであつて、これも、前述の通り、右被疑者遠藤洋一に対する前記東京都公安条例違反の被疑事実とは関係がないといわなければならない。

五、よつて、司法警察員高山喜七郎が昭和四四年一〇月一一日「ベトナムに平和を!」市民連合事務局においてなした別紙一目録記載の物件に対する差押処分は違法であるから、刑事訴訟法第四三二条第四二六条第二項により主文の通り決定する。(後藤勇)

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